2016年2月25日木曜日

FED 50mm F3.5 (L)

 オールドレンズの魅力・・・現代の高性能レンズでは味わえない特徴的な描写が得られたり、レンズ自体が持つ金属とガラスの質感に惹き寄せられたり、ヘリコイドや絞りを手動で操作しその感触を指先で楽しめる・・・等々、その理由は人それぞれでいくつも挙げられると思います。面白いのは利便性という現代の価値基準でこれら一つ一つを見ていくとほとんどが”不便な”ものなのですが、この”不便さ”をあえて楽しむことが出来るのがオールドレンズ遊びの醍醐味と言えそうです。そして何より数十年という長い時間経過の中で、その時々の様々なシーンをフィルム面に結像させてきたという歴史的ロマンまで抱かせてくれるのが、深い思い入れに繋がっていくのかもしれません。

 今回はオールドレンズを見ていく上で興味深い要素の一つであるコーティングに特徴がある一本・・・異様に青く、真っ青と言ってもいい程の濃いブルーコーティングが目立つロシアンレンズ 【FED 50mm F3.5(L)】 フェド50mmです。



 外観を見て分かるように基本的には沈胴エルマーのコピーレンズと言えるようです。レンズ構成も3群4枚のテッサー型で同様なのですが、絞りの位置がエルマーはレンズの1-2枚目間に置かれているのに対し、フェドは2-3枚目の間にあるという点です。(エルマーはテッサーの特許回避の為に絞りの位置を1-2枚目に配置したのに対し、フェドは元々のテッサーのレンズ構成通りに造られたということになるようです。)エルマーコピーレンズである東京光学製シムラー5cmF3.5(L)と比較してみると・・・


・・・絞り羽根の置かれている位置の違いが分かると思います。それにしてもこの2本が並ぶとコーティング濃度の差が一目瞭然ですね。シムラーもブルー系のモノコートが施されているのですが、このフェドと比べるとノンコートレンズに見えてきます。レンズ面での反射を減らし透過率を上げることがコーティングを施す目的の一つとされていますが、これだけ濃いブルーだとカラーバランスにかなり差が出てきそうな気もします。ちなみに撮影条件を固定(シャッター速度1/640、絞りF16、ISO100、ホワイトバランス固定、同フード装着、三脚使用)で両者を比較してみたところ・・・


・・・シムラーの方が青空の発色が実際の見た目に近く、フェドはブルーが落ち気味で若干黄色味がかった空色になってしまいました。またこのカットでは太陽光のフレアの出方にはっきりとした違いが見られ、フェドは随分と抑えられています。勿論全ての条件でフレアが抑えられるわけでもなく、太陽光など強い光源が画面内に入ってくると、角度によっては”青い点”となって現れるという特徴も見られます。


 絞り開放でのややザワ付いた印象になってしまう後ボケがいかにもエルマーらしいと言うか、F3.5クラスの描写と感じさせてくれる点で、


ベタな再現になりがちな高コントラスト&高彩度の被写体でも、固すぎない描写がかえって質感を与えてくれるように思えます。



 色のりも悪くなく、エルマーよりもコントラストが効いた描写が得られている感があり、すっきりとした背景の構図を選択するのが合っているのかも知れません。



 ピクセル等倍で見てしまうと細部の解像感に物足りなさを感じてしまいます・・・が、シャープネス、コントラスト、発色等々がバランスよくまとまっている点は好印象です。


 モノクロフィルム時代のレンズですのでコーティングがカラーバランスに与える影響を見てしまうのは微妙なところですね。ただ、あえてカラーで写りの特徴を探してみたりするのもオールドレンズの楽しみの一つになりそうです。

2016年2月4日木曜日

Carl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2 (L) = JUPITER-8 ?

 カメラの世界にはコピーモデルと言われるものが数多く存在します。例えば1940~50年代にはバルナック型ライカを模したカメラが各国で数多く作られ、日本でもニッカ、レオタックス、タナック等々本物そっくりの『コピーライカ』がいくつも存在し、輸出用もしくは低価格の入門用としてある一定の役割を果たしていたと思われます。またカメラ本体だけではなくレンズについても同様で、例えば沈胴エルマー50mmF3.5のコピーレンズなんて一体どれ程の種類存在するのか?これをコレクションのテーマとしてみても十分な手応えを感じられるものになる可能性があり、『コピーもの』というのは旧いカメラ&レンズにおいて非常に面白いジャンルと言えるかもしれません。

 このように本家本元を模したものを自身のブランドや製品名で発売していた『コピー品』に対して、もうひとつ注目したいのが、中身は本家本元のコピーであるのに加え、ついでに銘板まで本物をそのまま刻印してしまった『フェイク品』のケースです。ここまでいくと本家に対するリスペクト等は消え失せてしまい、オリジナルの人気が高いことに乗じて生まれてきた贋作という位置づけになります。偽物を流通させて当時商売としてどれ程の利益が出たのか知る由もありませんが、ちょっと怪しげな経緯は色々な妄想をかき立てるという点でも興味深いものがあります。そこで今回は・・・フェイク品が多く存在するといわれているゾナー【Carl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2(L)】を取り上げてみたいと思います。


 『フェイクゾナー50mmF2』の元レンズとなっているのは『コピーゾナー』であるロシア製ジュピター8ということですので、以前『GLIONミュージアム』のクラシックカーを撮影したライカLマウントの個体【KMZ JUPITER-8 5cm F2 (L)】と並べて比較してみたいと思います。



 外観を見ると鏡胴の長さが若干異なりますが、リングのローレットや、距離目盛り、絞り値の指標が似ていて、距離単位メートルの"M"も大文字になっています。またジュピター8はアルミ合金の鏡胴で軽量に仕上がっていて実測すると124g、一方のゾナーも後玉側マウント周りを見ても分かるようにほぼ同じ造りで重量も全く同じ値の124gでした。またヘリコイドのトルク感もややチープな感触で、指に感じるローレット加工や絞りリングのガタも触り馴れたロシアンレンズのそれに限りなく近いものです。


 WEB上での情報によると、銘板の文字や鏡胴の数字、赤▲マークの大きさ等もフェイク品の判断要素になるようで、この個体を見ても文字書体とピッチがツァイスらしい繊細な感じではありません。(この個体同士の比較ではピントノブの有無に違いがありますが、ジュピター8もノブ付きのタイプが存在します。)次にコーティングの様子を見てみると、


 ジュピター8はブルー系モノコートであるのに対し、ゾナーはアンバー系パープル系も施されていて時代的に新しい雰囲気が漂っています。(ジュピター自体が年代の異なる個体を見ても分かるように、様々なコーティングタイプが存在しています。)

 以上、いくつかの要素を見てきましたが、どうやらこの個体はJUPITER-8の本体から銘板だけを”Carl Zeiss Jena Sonnar”に付け替えた『改造フェイクゾナー』である可能性が高いと言えそうです。いずれにしてもこの様な品が存在したという事自体が、ある意味旧き佳き時代の象徴でもあり、偽物だからと無視するのはちょっと勿体ないので、将来へ残していくべきレンズ遺産の一つに加えてもいいのではないでしょうか。


 ジュピター8の描写に関しては以前のクラシックカー撮影で好印象を得ているので、このコーティング違いのフェイクゾナーでも期待度は高くなります・・・


 F5.6辺りに絞るとシャープさが画面全域で得られ階調も自然に再現されることからスッキリとした描写になります。


 遠景の描写も細部までクリアで解像感も十分高いレベルに感じます。


 近接側、細部も繊細な描写が味わえます。


 このような逆光条件でもコーティングの効果なのかコントラストも保ったまましっかりとトーンが再現されている点が好印象です。

 今回、『フェイク品』というオールドレンズの楽しみ方の幅広さを感じたわけですが、最後にふと気になったのは「銘板に刻まれたシリアルナンバーは連番になっていたのだろうか?」という点です。きっと『フェイクゾナー』もある程度の本数が同時に量産されたのではと推測されますが、銘板のシリアルナンバーを個々に変えるということまでしていたのか?それとも同じ番号の銘板を沢山作ってシリアルナンバーまで同じクローンが多く存在するのか?・・・なんだか妙に気になります。