カメラの世界にはコピーモデルと言われるものが数多く存在します。例えば1940~50年代にはバルナック型ライカを模したカメラが各国で数多く作られ、日本でもニッカ、レオタックス、タナック等々本物そっくりの『コピーライカ』がいくつも存在し、輸出用もしくは低価格の入門用としてある一定の役割を果たしていたと思われます。またカメラ本体だけではなくレンズについても同様で、例えば沈胴エルマー50mmF3.5のコピーレンズなんて一体どれ程の種類存在するのか?これをコレクションのテーマとしてみても十分な手応えを感じられるものになる可能性があり、『コピーもの』というのは旧いカメラ&レンズにおいて非常に面白いジャンルと言えるかもしれません。
このように本家本元を模したものを自身のブランドや製品名で発売していた『コピー品』に対して、もうひとつ注目したいのが、中身は本家本元のコピーであるのに加え、ついでに銘板まで本物をそのまま刻印してしまった『フェイク品』のケースです。ここまでいくと本家に対するリスペクト等は消え失せてしまい、オリジナルの人気が高いことに乗じて生まれてきた贋作という位置づけになります。偽物を流通させて当時商売としてどれ程の利益が出たのか知る由もありませんが、ちょっと怪しげな経緯は色々な妄想をかき立てるという点でも興味深いものがあります。そこで今回は・・・フェイク品が多く存在するといわれているゾナー【Carl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2(L)】を取り上げてみたいと思います。
『フェイクゾナー50mmF2』の元レンズとなっているのは『コピーゾナー』であるロシア製ジュピター8ということですので、以前『GLIONミュージアム』のクラシックカーを撮影したライカLマウントの個体【KMZ JUPITER-8 5cm F2 (L)】と並べて比較してみたいと思います。
外観を見ると鏡胴の長さが若干異なりますが、リングのローレットや、距離目盛り、絞り値の指標が似ていて、距離単位メートルの"M"も大文字になっています。またジュピター8はアルミ合金の鏡胴で軽量に仕上がっていて実測すると124g、一方のゾナーも後玉側マウント周りを見ても分かるようにほぼ同じ造りで重量も全く同じ値の124gでした。またヘリコイドのトルク感もややチープな感触で、指に感じるローレット加工や絞りリングのガタも触り馴れたロシアンレンズのそれに限りなく近いものです。
WEB上での情報によると、銘板の文字や鏡胴の数字、赤▲マークの大きさ等もフェイク品の判断要素になるようで、この個体を見ても文字書体とピッチがツァイスらしい繊細な感じではありません。(この個体同士の比較ではピントノブの有無に違いがありますが、ジュピター8もノブ付きのタイプが存在します。)次にコーティングの様子を見てみると、
ジュピター8はブルー系モノコートであるのに対し、ゾナーはアンバー系パープル系も施されていて時代的に新しい雰囲気が漂っています。(ジュピター自体が年代の異なる個体を見ても分かるように、様々なコーティングタイプが存在しています。)
以上、いくつかの要素を見てきましたが、どうやらこの個体はJUPITER-8の本体から銘板だけを”Carl Zeiss Jena Sonnar”に付け替えた『改造フェイクゾナー』である可能性が高いと言えそうです。いずれにしてもこの様な品が存在したという事自体が、ある意味旧き佳き時代の象徴でもあり、偽物だからと無視するのはちょっと勿体ないので、将来へ残していくべきレンズ遺産の一つに加えてもいいのではないでしょうか。
ジュピター8の描写に関しては以前のクラシックカー撮影で好印象を得ているので、このコーティング違いのフェイクゾナーでも期待度は高くなります・・・
F5.6辺りに絞るとシャープさが画面全域で得られ階調も自然に再現されることからスッキリとした描写になります。
遠景の描写も細部までクリアで解像感も十分高いレベルに感じます。
近接側、細部も繊細な描写が味わえます。
このような逆光条件でもコーティングの効果なのかコントラストも保ったまましっかりとトーンが再現されている点が好印象です。
今回、『フェイク品』というオールドレンズの楽しみ方の幅広さを感じたわけですが、最後にふと気になったのは「銘板に刻まれたシリアルナンバーは連番になっていたのだろうか?」という点です。きっと『フェイクゾナー』もある程度の本数が同時に量産されたのではと推測されますが、銘板のシリアルナンバーを個々に変えるということまでしていたのか?それとも同じ番号の銘板を沢山作ってシリアルナンバーまで同じクローンが多く存在するのか?・・・なんだか妙に気になります。
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